ずっと。


ずっと身体が欲しかった
みんなに見てもらえる身体が欲しかった
ねぇお母さん
玩具なんて欲しく無いから
だからだからぼくに
身体を頂戴よ


…それはごく普通に行われていたはずだった。
医師も安産になるだろうと言っていたし、
実際医師の告げた出産日よりやや陣痛が早めだっただけで、
そんな事ごくまれに起こるようなたいした事じゃ無かったはずなんだ


…陣痛が始まってから数時間後。
皆の期待が最高に達してきた頃のことだった。
とても元気の良さそうなオギャーと言う産声が聞こえたその時、
外にいた人たちは一刻も早くわが子をと、
あるいは孫を早く見たいと、そう願っていたに違いないだろう。

が。

生まれてきた赤ん坊は。その子供は。

…一瞬、赤ん坊をひきあげた看護婦は自分の目を疑った。

まさか。そんな馬鹿な。

まだ生まれて間も無いその子は、

……姿が、無かったのだった。

母親は、その姿のないわが子を抱き上げて。

そっと、静かにその赤みがかった赤ん坊の頬に、
涙を一つ、ぽとりと落とした。

…お母さん、どうしてぼくをかくすの?
ぼく、お母さんのふく、よごしちゃったから?
ごめんね。ごめんね。
おかあさん、ごめんね。
もう二度としないから。

母親は、まだあどけない幼さがみられる声だけでしか
その居場所がわからないわが子に、
ただ、「ううん、ううん。」と、
なにもないのにあたたかさのある不思議なそれを、
ただただ抱き締めて、「ううん…」と。

…姿のないその子は、スマイルと名付けられていた。

−−−−−「…ル、スマイルッ!!!」

「ん…?あ、ああ、アッスくん、どうしたの?」

「全く…今は練習中っスよ!…って、ス、スマイル??」

いきなり、さっきまで不満ありげな顔をしていたアッシュが、
自分に向かって謝りの表情を見せていた事に、
疑問を感じたスマイルは問おうと思ったが、それとほぼ同時に、
自分の身体の異変に気付く。

「…あ、アレ??……アレレレレ????」

自分でも分からなかった。その、突然の自分の頬を伝う涙に。

…それは、思い出さなかったから。
きっと、思い出さなかったから。
…思い出したく、なかったから。
きっと。


忘れたくたって、包帯をとけば思い出す。

こんな事をいったら、あのユーリはどんな顔をするかな。

アッスくんは呆れるかもね

それでも

いつか

いつか君達に話せる時がくるはずだから

その時は君等ならわかってくれるハズさ

だって君達は仲間だから

君達は、オレの大事な

大事な大事な宝物だから

やっと見つけたオレの居場所だから…


ずっと身体が欲しかった
みんなとおんなじ
見える身体が欲しかったんだ

…でもねお母さん
もうきっといらないんだ
ぼくはもっと大事なモノを手に入れる事ができたからだから
もうきっといらないんだよ

ぼくはこの晴れわたる青空の下で

ずっと、祈ってるから

ずっとずっと、祈ってるから。

…ずっと。




結監様より戴きましたポップン小説です。ありがとうございました!

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